難民条約と一般的に呼ばれる難民の地位に関する条約は、難民の保護を目的とした国際的な法的文書で、1951年にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によって作成され、日本は1982年に加入しました。
条約において難民とは、「人種、宗教、国籍、特定の社会集団の構成員であること、または政治的意見を理由として迫害を受けるという十分な根拠に基づく恐怖のために、出身国に戻ることができないか、戻る意思がない人」と定義されています。中心となるのがノン・ルフールマン原則と呼ばれるもので、生命や自由に対する深刻な脅威に直面する国に難民を送還することを禁止し、既に国内にいる難民の保護を求めるものです。
頻繁に同じ意味として使われていますが、庇護(ひご)希望者は難民とは異なり、「国家の保護を求めていながら、まだ難民の地位を与えられておらず、避難の理由となる状況に対する援助を受けていない人」を指します。
数字で見る世界の状況
自分の居住地から強制的に移動させられる人々の数は過去30年間でピークに達し、迫害、暴力、国家間の紛争などさまざまな理由で2023年末で合計1億1,730万人が強制移住させられたとUNHCRが報告しています。そのうち、3,160万人が難民として認定されており、690万人は庇護希望者で、おおよそ半分である6,830万人は国内避難民と呼ばれる母国内で居場所を奪われた人々です。また、世界で故郷を追われた人たちの約4割が18歳未満の子どもたちです。世界の難民の75%は中・低所得国で受け入れられています。

主な難民出身国と難民受け入れ国

UNHCRによるこのグラフは、難民が逃れる元となった祖国、つまり難民出身国上位5カ国の2023年のデータです。上位からアフガニスタン、シリア、ベネズエラ、ウクライナ、南スーダンとなっていて、この3カ国だけで世界の難民人口の73%を占めています。
同じくUNHCR作成のこちらのグラフは、難民の避難先、つまり受け入れ国の2022年の上位5カ国を示したものです。上位からイラン、トルコ、コロンビア、ドイツ、パキスタンとなっており、中・低所得国が多くの難民を受け入れていることが分かります。

数字で見る国内の状況
日本は現在と比べると多くの難民を受け入れてきた歴史がありますが、他の先進国の難民認定率と比べると常に難民の受け入れに苦慮してきたのが窺えます。特にベトナム戦争後の1978年から2005年にかけて、日本は主にベトナム、ラオス、カンボジアから1万人を超えるインドシナ難民を受け入れました。1970年代後半は特に、それまで第三国定住に消極的だった日本が難民の受け入れに積極的になるなど、移民政策に大きな変化があったのです。日本はその後1981年に難民に関する国際協定に参加し、翌年には国連の1951年難民条約を批准し発効、それに伴い現在の出入国管理及び難民認定法に改められました。当時から現在まで難民認定は法務省の出入国在留管理庁が請け負っています。しかしながら、当初は不法滞在や不法残留のみを対象としていたため「移民を管理する」という視点が強く根付いており、難民認定という新たな任務への適切な対応が難しくなっているのです。
2008年、日本は第三国定住支援プログラムを開始することを決定し、その後2010年に国連の同一プログラムに正式に参加しました。これにより、日本政府はミャンマーからの難民を3年間で90人受け入れることを約束したのです。UNHCRの報告によると、日本はミャンマーからの庇護希望者を難民として認定する割合が他国よりかなり高く、これはミャンマーとの深い友好の歴史に起因していると言われています。
日本はこの国際条約に参加することで、庇護希望者を受け入れ、難民認定を行うことを約束しました。しかし、当初から厳しい移民規制を行っており、難民として受け入れられる庇護希望者の数は明らかに少なくなっています。出入国在留管理庁によると、2024年に難民認定を受けたのは審査された申請者数5,293人の内の約3.33%である176人で、申請者の出身国は多い順にスリランカ、タイ、トルコ、インド、パキスタンでした。2023年に認定されたのは審査された申請者5,334人の5.42%である289人、その前の年は5,605人のうちさらに低い3.34%の187人という数になっています。下の図は、2019年に日本を含めた先進国諸国が受け入れた難民の数と人口を比較したもので、日本の認定率の低さが見て取れます。

先進国としての日本の役割 – 理論と実践
理論的には、加入国は「難民の負担を分担」して保護する役割を果たすべきと規定する1951年の難民条約に日本は1981年に調印・批准しており、それを実現する人道的義務を負っています。日本はこの国際的な条約に加入するだけでなく、難民支援における日本の立場は「人道的見地から、難民支援は国際社会の一員としての当然の義務である」と外務省のホームページでも断言しています。このような合意や声明にもかかわらず、実際には日本の難民受け入れは極めて少なく、近年は申請者全体の1%も満たしません。
日本が低い難民受け入れ数を擁護する根拠の一つとして、国連難民条約に難民受け入れの目標数が明記されていないことがあります。各国が独自に法律や目標を作ることができるのです。そのため、日本はUNHCRへの資金拠出を通じて「負担を分担」していることを主張しており、実際に日本政府は過去15年間、UNHCRのドナー国上位国に入っています。下の表から、2024年に日本はUNHCRの7番目に最大の援助国であり、合計1億1853万7032米ドル(2025年2月の為替レートで約184億円)を寄付していることが分かります。4番目に最大の援助国であった昨年からは、下がった状況です。

もう一つ、一般的に挙げられる正当な理由に偽装難民申請者の存在があります。偽装難民とは、実際には難民ではないのにも関わらず、主に就労許可といった難民認定の特典を利用するために、難民のふりをして申請を行う人のことを指します。日本はこのような「偽装」と思われる難民を排除するために、難民審査の制度を強化してきたのです。この厳しい制度では、難民がどのようにして難民になったのか、実際に資料や書類で証明することを求められます。
このような「偽装難民」が多く存在するという広い認識を示す一例として、ある難民の子どもの写真をもとに作られた批判的な漫画があります。下の写真は、セーブ・ザ・チルドレンで働いていたジョナサン・ハイアムズが撮った、レバノンの難民キャンプにいる6歳のシリアの女の子です。

2015年9月、日本の右翼漫画家であるはすみとしこが、この写真を「他人の金で生きていきたい。そうだ、難民しよう」といった言葉をつけた漫画に加工したのです。これが反発を招き、世界中で外国人嫌悪や人種差別についての議論を巻き起こしました。日本では、難民あるいは外国人全般に対しても、危険、違いすぎる、怖い、怠け者、犯罪者という認識があり、このような外国人に対する恐怖心が難民や庇護希望者の日本での定住にも悪影響を及ぼしています。さらに、こうした固定観念は日本における偽装難民の俗説に信憑性を与え、強化することになるのです。
作者は、偽装難民に注目を集め実際の難民の窮状を否定することが目的だとして、謝罪はしませんでした。このような誤解は日本の人々の間で広く浸透しており、難民のさらなる受け入れに寛容になれるかどうかに直接影響しています。 命からがら自国から避難し、再出発の機会を探し求め日本に到着した庇護希望者は、法的体制と社会的な受け入れにおいて新たな困難に遭遇しているのです。

結論として、日本はUNHCRの上位資金拠出国であるにもかかわらず、日本国内の庇護希望者や難民に対してはあまり関心を抱いておらず、直接的な金銭支援もしていないということが言えます。庇護を求める人々の多くは、自分たちの窮状を文面で証明することなど考えず、ただ自分と家族を安全な場所に避難させる思いでやっとのことで逃げてきた人々です。そんな彼らを待ち受けるのが、そもそも不認定を受けるために作られたような厳しい制度に、難民としての地位を証明する文書や証拠を提出しなくてはならないという現状なのです。