研究方法

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はじめに

このホームページで紹介されている物語は、公開にいたるまで多くの時間と努力が費やされています。上智大学にて、デビッド・スレイター教授により毎学期開講されている「デジタル・オーラル・ナラティブ」。その授業に集まる、熱心な学生が数ヶ月間に渡りこのプロジェクトに携わり、また、数名のTA(ティーチング・アシスタント)が授業とウェブサイトの編集の両面でサポートしています。当研究方法のページでは、学生が研究に先立ち学ぶ、文献を用いた理論・教授による語り手の選考・データの分析・そして執筆までのすべての過程の概要を掲載しています。Refugee Voices Japanプロジェクトの研究方法の説明をご紹介することで、研究に携わる学生たちがどの様な過程を経て、難民の方々の物語を伝えているのか知っていただければ幸いです。

「他国の文化や情勢には興味があったとしても、難民の語り手の方々との文化的な馴染みがなかったことが難しかったです。」

アヤノ(2021)

難民問題に関する基礎知識

知識や今までの経験の量がそれぞれ異なる学生が強制移住学に関する基礎的な理解をするため、授業が開始した最初の数週間は、さまざまな文献の読み込みを行います。当プロジェクト、「デジタル・オーラル・ナラティブ」を実施するにあたり、最も重要な文献が、1951年の難民条約です。1981年にこの条約に加盟した日本の移民に関する法律は、この条約が示す難民の定義が基盤となっています。1951年の条約とそれに続く1967年の議定書は、難民を以下のように定義しています。

「1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まない者。」

この定義は、難民とみなされる条件や、他国に入国する際に与えられるべき権利を定める重要なものです。受け入れ国は、この条約を参照し、「難民」とみなされる人とそれ以外の人(庇護希望者、経済移民、不法移民など)に対して各国の規定を定めています。

この授業の基礎理論の教科書の一つとして使用しているのが、「オックスフォード ハンドブック 難民と強制移住学」 (フィディアン・カズミヤ氏他編集)であり、難民の地位に関する1951年の条約の定義や、その制定に至った第二次世界大戦の歴史的背景について解説をしています。この本の序文では、難民研究分野の拡大と、世界中で起きている社会的・政治的な出来事により変化する移民の状況について示されています。特に「難民保護の国際法」(グッドウィン・ギル氏著)の章では、国際法で規定されている難民保護政策に関する詳しい説明があります。

「ノン・ルフールマン原則」は特に重要な用語であり、難民の人々を、迫害されている国へ強制的に帰還させてはいけないという意味を持ちます。この原則は、1951年条約が遵守すべき難民に関する国際法の柱となっています。このように、難民国際法に関する基礎的知識を十分に理解した上で、現状の日本の難民政策の背景を具体的に理解することができると考えています。

2020年、日本は3,936名の難民認定申請者のうち47名を難民として受け入れました。日本の平均年間難民認定率は約0.3%、それに比べ、ドイツでは同年の申請者数の約74%にあたる55,388人を受け入れており、日本の難民認定率の低さが顕著に現れています。日本の難民政策は、1981年に制定された「出入国管理及び難民認定法」にその概要が示されています。出入国在留管理庁が難民認定申請を処理する際、入国者に対する保護ではなく、管理が優先されることが多いと言われています。現状、日本が難民と判断する理由として、政府から個人的に狙われなければならないという解釈を採ることにより、難民の定義を狭くし、当てはまりづらくしているという指摘もあります。要件を満たすことが極めて困難であることから、多くの正当な難民申請者が制度的に排除されています。日本の入国管理制度について、詳しくはこちらをご覧ください。

さらに、日本のメディアで難民がどのように取り上げられているか知るため、昨今の新聞記事の収集も行います。最終的に当ウェブサイトにて公開する内容の選定の参考にもなっています。

日本で暮らす難民をインタビューするにあたり、学生たちは倫理的な配慮を十分に理解する必要があります。「倫理的配慮 ー 強制移住状態における人々との研究 ー」(クラーク・カザク氏著)には、研究者が全体を通して留意すべき点がまとめられています。難民の人々は、しばしば周囲の人々のなすがままにならざるを得ない脆弱な場所に身を置いているため、金銭や援助を提供できる可能性のある研究者にも左右されかねません。このような関係性が助長し得る、不均衡な力関係を常に認識し、改善する必要があると考えます。このプロジェクトでは、自分自身のインタビューデータがどのように利用されるかの決定権を難民の方々に委ねており、許可された範囲以内で公開しています。

語り手選び

プロジェクトの語り手は、ソフィア・レフュジー・サポート・グループ(SRSG・上智難民支援団体)の支援活動で培われたネットワークを通じて選ばれます。当学生団体は難民のための交流会や寄付活動、その他サポートなど様々な活動を行っており、これまで難民の方々と幅広いネットワークを構築してきました。語り手となりうる人物にコンタクトを取る際には、どのような方にインタビューをするのが最適かを考慮することが重要です。すべての難民申請者が自分のストーリーを公にすることを望んでいるわけではありませんが、多くの方は何が起こっているのかを世界に知らせるための場所や機会を求めています。また、複雑で困難な自らの過去の経験や感情を、学生と取り組む中で、共有するということに意欲的な方を探すことも重要です。

既存の文字起こしの分析

私たちが一緒に取り組む語り手の多くが、既にプロジェクトの一環としてインタビューに応じていただいたことのある方々です。学生はその学期の語り手を紹介されると、既存のインタビューのビデオ映像と文字起こしが提供されます。1回のインタビューは平均1時間半~2時間、文字起こしは60~80ページ程度になります。このように語り手の情報を事前に学ぶことで、実際にインタビューを行う際に、語り手の方の話をより繊細に汲み取ることができると考えます。

学生は過去の資料を受け取る前に、すべての語り手のプライバシーと権利の保護の重要性を規定した同意書を読み、署名することを必須としています。同意書には、授業で使用した資料のメディアへの販売、他の研究プロジェクトへの使用、授業外での個人的な利益のための使用の禁止が明記されています。

書式は以下の通りです。

抜粋「私 _________ はインタビューの録音や録画等の資料を第三者、特に利益や研究目的のメディアなどへの共有をしないことに同意します。また自身が行うインタビューやプロジェクトへの参加により得た、資料の所有権や知的財産権等の法的権利は全てプロジェクトにあることに承諾します。」

この同意書に署名をした後、学生は資料へのアクセス権を得ます。まず、文字起こしの読み込みにより、語り手の雰囲気、コミュニケーションの取り方、質問の種類などについて学びます。そして、一通りメインの質問を聞いた後、どの様な質問をすることで、特に語り手が興味を示しているトピックを深掘り、社会問題や政治的出来事についても、より詳しく情報を聞き出すことができるのか、学びます。生徒たちは語り手が一例となるような主要なテーマを決定し、今後のインタビューでさらに探求し注目する必要がある分野を特定し始めるのです。この情報から、学生はフォーカスすべきトピックの判別や、注意を払う必要がある部分の特定をするスキルを身につけます。そして、学生は語り手の背景調査、特に出身国に関する調査を行うことで、より的確で繊細な質問をするための準備をします。

既存の資料を用いた語り手の紹介後、学生は担当する語り手を決めます。その学期中、語り手が一人しかいない場合は、どの側面に焦点を当てるかを選択します。グループは通常3-4人の生徒で構成され、残りの授業期間中、その語り手のストーリーに取り組みます。学生は、この様なプロセスを通じて、当プロジェクトへの参加準備を整えます。

倫理的配慮に関するトレーニング

語り手がこのプロジェクトへの参加を同意した後、プライバシーと個人情報保護に関する同意書を手渡します。この確認が全過程において最も重要と言えます。これを通し、語り手にインタビューの録音・録画や文字起こしがRefugee Voices Japanのプロジェクトに使用されること、そして「デジタル・オーラル・ナラティブ」の授業教材としての使用に限り、今後使用されることを説明します。また、一般公開にあたり、必ず、難民の語り手による使用データの確認と承諾を必ず取ること、そして希望により、いつでも内容の修正やインタビューの記録の削除も可能であることを伝えます。データは常に語り手に所有権があると認識しています。これにより、語り手に、自分が提供するデータを完全に管理できるという安心感を与え、信頼関係を築く一歩となることを願っています。

「私たちのプロジェクトでは、同意書の記入を必ずお願いしています。多くの難民が既に書類や法的な手続きに関してあまり良くない経験をしてきているので、発言を撤回できる権利など、この同意書が指す内容を丁寧に説明する必要があるのです。」

ナホ (2020)

最初のインタビュー開始時に同意書への署名をお願いしていますが、それ以降の全てのインタビューも同様にプライバシーや個人情報保護の再確認をすることから始まります。語り手は毎回「はい、わかりました」と答える繰り返しになるかもしれませんが、自らの権利を十分に認識していることを確認するためには、とても重要なことだと考えています。インタビューが終わると語り手はもう一度同意書を確認し、インタビューの内容や自分の答えに納得の上、署名をします。

私たちが使用している同意書は以下の通りです。

抜粋「私 _________ は本日_________にこのインタビューに参加することに同意し、授業でのディスカッションや学会でのプレゼンテーション、研究報告など、プロジェクトの参加者と共有することに同意します。(特記事項: __________________) 新聞やテレビなど一般公開される場合、事前に必ず同意をいただいた上での公開可能範囲を教えてください (ビデオ:はい / いいえ 音声:はい / いいえ お名前 フルネーム / イニシャル / 匿名)」

難民の語り手の希望を聞く欄があるのがご覧いただけると思います。これらは彼らの録音、録画、名前の使用についてそれぞれ指示を仰ぐものです。また、自由記入欄はその後のデータ使用について他に希望がある場合に使用されます。「私の家族に関することは一切ウェブサイトには載せないでください」や「私の◯◯での仕事に関することは記録からすべて削除してください」などの指示があった場合、プロジェクトに参加する学生もそれらの情報を見ることはありません。

インタビュー手法と技術のトレーニング

このように、インタビューの開始時における重要な点を理解したのち、学生はインタビューの計画に移ります。質問作成の前に、まずはインタビュー手法について学びます。例えば、インタビュー当日、全体の大まかな流れを説明する際に、まず、主なトピックをインタビュー相手に伝えます。こうすることで、語り手はインタビューの中で中心となるトピックを認識し、語り手も聞き手も話が逸れないように注意することができます。  

インタビューの構成を学んだ後、学生は、参考となる過去のインタビューを分析します。これを踏まえ、過去のインタビューでは触れられなかったトピックについて、次回のインタビューではどの様に質問を投げかけることができるか考えます。インタビューでの質問は学術的なものでありながら、語り手が落ち着いた環境で自分の考えを表現できるように、質問の仕方や表現に注意する必要があります。聞く姿勢を見せることもまた大事であり、無音であっても、頷きや相槌によって語り手に常に伝わるようにします。なるべく音を出さないようにするのは、語り手の話を遮らないようにするためです。

2021年春学期の学生のが頷きながら話を聞きメモを取っている様子。本人の希望により、プライバシー保護のため語り手の顔にモザイクをかけています。

インタビューを行う際の重要な手法の他の例として、語り手の話す内容に対して、その場で適切かつ的確な質問をする技能があります。インタビュー中に語り手が答える内容には、不明瞭な考えも当然含まれます。聞き手の役割として、このような細かな点に注意を払い、明確にすべき点、あるいはさらに掘り下げるべき点に対して追加で質問をすることなのです。これらは、練習により身につくスキルです。

コーディングと質問の形成

一通り初歩的なインタビュー手法を学ぶと、学生は語り手との前回のインタビューの文字起こしの再確認に移ります。より深く掘り下げる方法として学生が使用するのが、コーディングと呼ばれる作業です。グループに分かれた学生たちは過去のインタビューを研究し、語り手のストーリーにおいて主要であると思うテーマとサブテーマを作成します。これらのテーマは一人につき一つから二つであり、それぞれ特定の色を割り当て、チームでテーマに従って文字起こしにマーカーをひいていきます。加えて、興味深い発言についての具体的な趣旨や、疑問点、不明点などを文書にコメントとして書き留めます。このコーディング作業は、エクセルを用いることで、テーマの色が付けられたデータの正確な割合の内訳を可視化することもできます。これにより、学生は各テーマについてどれだけの内容が既に得られているかを明確に把握することができ、今後のインタビューでどのテーマをより重点的に扱う必要があるのかを理解できるのです。コーディングは、チーム全員による共同作業であり、コミュニケーション、微調整、そして柔軟な思考が必要不可欠です。以下は、このコーディングの例です。

こちらのエクセルでは、コーディングに対し綿密な方法を取っているのが分かります。サブテーマとそれに対応する色が入力され、関数を用いることで、特定のサブテーマが強調された回数と他テーマとの割合の比較、およびインタビューからの引用が瞬時に現れます。こういた方法により、学生は1つのファイル上でインタビュー全体の内容を網羅的に把握することができるのです。

これらの過程を経て、過去のインタビューのデータから、インタビュー中に取り上げたいテーマを抽出します。この時点で、学生は質問事項を練り始めます。2021年は、スプラドリー氏著の「エスノグラフィック・インタビュー」を用いて、メインテーマに関する説明的質問、民族誌的質問、記述的質問、構造的質問、そして対比的質問を形成しました。このように多岐に渡る質問を準備することで、重要な出来事や語り手の考えを様々な角度から取り上げるのに役立つだけでなく、インタビューそのものが参加者全員にとってより魅力的なものとなるのです。質問は「バケツ」と呼ばれるグループにテーマごとに分類され、一般的な質問からより深い質問へと並べられます。これらの質問の中には、語り手のさまざまな記憶を掘り起こすものもあるため、語り手に対して、その質問を聞く背景を説明することもあります。なぜそのような質問をするのかを理解し、それが最終的にウェブサイトで公開する語り手のページにどの様に掲載されるのかを説明できるようにしておくことが重要です。 

「私の語り手のジェームスは、私が全く経験したことのないようなことを話してくれました。もっと知るために質問をしようと思っても、言い方やなぜそのようなことを聞くのかの説明に気をつける必要がありました。自分の好奇心を満たすためだけでなく、彼が望む形でのちに彼の物語を語るためです。」

ナホ(2020)

語り手がどうコミュニケーションを取るか学生が理解するようになるにつれ、インタビューの質問の形も、語り手により適したものになるでしょう。インタビューの当日まで、学生は教授やTAの助けを借りながら、質問の編集と改善を繰り返します。

背景の研究

この時点で、学生たちは語り手自身と彼らが送ってきた人生について、基本的なことを把握し始めます。しかし「デジタル・オーラル・ナラティブ」の授業で学生に常に結びつけてほしいのは、語り手の人生の物語の基盤となる政治的・文化的背景です。このような背景知識はこのプロジェクトで取り上げる個人的な物語に不可欠なため、出身国についての情報や社会事情についての基本的なリサーチが必要なのです。

「彼らは、複雑で重層的な迫害の中に閉じ込められており、関与する様々な要因の理解なしには説明できません。」

ナホ(2020)

学生は、コーディング中に特定したテーマに基づき、国のプロフィールのようなものを作成するための調査を行います。ニュース記事や政党のウェブサイト、学術雑誌、YouTubeのニュース動画などの情報源から、学生は社会的・政治的背景の正確なイメージを形成するために必要な文献をまとめ始めます。インタビューの中で語り手が政治的な出来事や都市についてさり気なく触れていることが多いため、インタビュアーが語り手の言っていることをより良く理解するためには、このような背景の研究が非常に重要です。これらの文献は、インタビューを理解するのに重要な背景知識となるだけでなく、最終的にはウェブサイトに外部文献として使用されます。

インタビュー

全てのインタビューは上智大学にて行われます。学生は取材前に部屋やカメラ機材、ボイスレコーダーのセッティングを行い、本カメラと予備用のカメラは語り手の椅子に向け設置し、インタビュー開始前に設定を調整します。カメラやSDカードにトラブルが生じた場合を考え、万全の体制で臨みます。以下は典型的なカメラの設置図です。

語り手が到着すると、通常、録音・録画を始める前に短い会話や自己紹介をします。こうすることで、お互いについて少し知り合い、より心地良い空間を作り出すことができます。これは学術的な研究プロジェクトですが、授業では明るい雰囲気を大切にしています。インタビューは通常1時間半から2時間で、複数回を通していくつかの異なるテーマを扱います。

上記の通り、インタビューは必ずまず語り手の権利の再確認と、取り上げる題材の簡単な紹介から始めます。以下はインタビューの始め方の例です。

注:このページの全ての動画において日本語字幕をご利用いただけます。
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冒頭部の台本

じゃあ始めましょうか!こんにちは、私はハヨンです。そして私はマヤです。よろしくお願いします。今日はインタビューをいただけるといういうことで、とても嬉しく思っています。お時間をいただきありがとうございます。今日のインタビューは、私がリード、マヤがサポートを担当します。このインタビューは約1時間半の予定ですが、私とマヤは16時半まで時間がありますので、もしよろしければもっと長くお話しさせてください。もし、少し休憩したい、水を飲みたいなどあれば、言ってくださいね。今日は、東京での生活、九州への移住、コミュニティとの関わり、新型コロナウィルスなど、この3年間の日本での生活について主にお話を伺いたいと思います。

インタビューを始める前に、以前インタビューを受けてくださった際に、すでにお伝えしていると思いますが、再確認としてインタビューの重要な点を簡単に説明します。このインタビューは、スレイター教授のRefugee Voices Japanプロジェクトを扱う授業「デジタル・オーラル・ナラティブ」の一環として行われています。このインタビューは録画され、スレイター教授の授業やRefugee Voices Japanのウェブサイトなど、何らかの学術的な目的で使用される予定です。録画の一時停止や終了を希望される場合は、そのように対応します。また、質問をスキップしたい場合も可能です。最終的な決定権はあなたにありますので、インタビューの後、削除したいものは教えてください。後日、スレイター教授から別の同意書が送付されますので、それについても後ほどご連絡いたします。

念のため、音声に問題がないことを確認するために、何か、「test1,2」などと言ってもらっていいですか?(顔に少し影がかかってしまってますね。部屋にランプなどがあれば、コンピュータの横に移動することは可能ですか?)(ビデオとマイクのチェック)

インタビュー中、いつでも自由に質問してくださいね。始める前に、今、何か質問や心配なことはありますか?

マヤ、他に何かありますか?

また、インタビューには複数の学生が参加するため、始めに誰がインタビューを先導するか伝えます。この学生は「メイン」と呼ばれ、事前に書かれた質問の「バケツ」に従い、質問を進めていく役割を担っています。そのサポート役の学生を「サブ」と呼び、不明確な用語が使用されれば聞き返し、興味深い点があれば掘り下げ、必要であれば追加の質問をするのが仕事です。このインタビュー手法は、デビッド・スレイター教授が東北での研究の際に開発されたものです。

「インタビューの進行状況を把握し、語り手の話を十分に聞くこと、これは非常に難しいことです。そこで、この2つの機能を分けて、それぞれを別の人が担当するようにしました。」

デビッド・スレイター(2022)

インタビュー中、学生は語り手の前のテーブルで自分専用のメモをとります。聞いている姿勢を示すために、学生は注意を払いながら集中して話を聞き取り、後に行う動画編集を考慮し、語り手の声が途切れないようにします。そこで、サブとメインは追加の質問をする際はお互いをそっとトントンとたたき、インタビュー中もコミュニケーションをとります。

質問が終わると、学生は語り手に最後の一言をお願いし、そして今回インタビューの機会をいただけたことに感謝をし、インタビューは終了となります。学生の一部が語り手を大学の門までお送りする間、他の学生はカメラを片付け、SDカードをTAに渡し、ストレージにアップロードします。

インタビューのトピックによっては、語り手にとって話すのが難しい場合があることを留意することが重要です。暴力、周りの人の死や別れは難民の生活と密接に関係しており、これらの出来事について深く話すことは精神的に非常に負担となる可能性があるからです。インタビュアーはこういった質問を聞くことに備えるための時間を取ることが重要になります。語り手がこのようなトピックについて話したいのであれば、このような話題を除外しようとはしませんが、常に配慮は必要です。インタビューの理想的な結果は、語り手が耳を傾けられ、尊重されていると感じることにあります。

「このプロジェクトに皆さんと一緒に取り組むことができて私も嬉しかったです。ありがとうございました。他の皆さんの努力にも感謝しているとお伝えください。」

ある語り手(2021)

こうして得たインタビューのデータは、直後に学生、TA、教授が集まり行われる「反省会」で吟味し分析されます。この分析は、語り手が述べた話で私たちの理解が足りない箇所をを特定するだけでなく、学生が改善できる点を検討するためにも重要です。改善点の例としては、追加の質問を挟むタイミング、インタビューの質問の明確な言い回し、インタビュアーの関わり方、語り手が話しているときにインタビュアーが発する音を小さくすることなどが挙げられます。この「反省会」は、以降のインタビューを改善し、授業としての熟練さを示すために非常に重要なのです。

コロナ禍でのインタビュー

新型コロナウィルスが流行する中、安全対策としてインタビューの構成を変更する必要がありました。そこで、全体の内容や語り手の位置づけはそのままで、インタビュー自体は全てZoomの録画機能を使い行うこととしました。このことは、インタビュー手法の経験として利点でありながら同時に欠点ともなりました。ある学生はこう語っています。

「オンラインにすることで、東京や東京近郊以外の様々な場所にいる難民をより多くインタビューすることができます。東京にいる私たちの場合、福岡にいるナヘドとコミュニケーションをとることができました。しかしオンラインであるがゆえに、私たちの間の距離からつながりを感じるのは難しかったです。ナヘドが繊細な問題について話しているとき、私たちの感情や想いをオンラインで表現するのには苦戦しました。」

ハヨン(2021)

オンラインでのインタビューのその他の懸念としては、技術的な問題や、音声や画像の低品質が挙げられました。しかし、利点としては他にも、より柔軟なスケジュール設定が可能であること、また「メイン」と「サブ」間のコミュニケーションが容易であり、インタビュー中も互いにメッセージを送ることで、インタビューの邪魔は最小限に抑えられることなどがありました。以下はオンラインインタビューの一例です。

ヤセルと2021年春学期の生徒たち

動画の編集

インタビュー後、過去から現在までのすべてのデータを見直し、ウェブサイトに使える「クリップ」や引用を探し始めます。「クリップ」とは、語り手についてのページで全般的に使用される、短く編集された動画のことをいいます。語り手の言葉をそのまま伝えることに重きを置いているため、語り手自身の言葉を物語の中に登場させる目的で挿入しています。これは、感情的であったり、個人的な思い出であることから、語り手自身によって語られることにより、最も印象に残ると考えています。同様に、引用文は特に印象的な語りの短い部分に使用されます。これらの「クリップ」や引用文は、全体の文章を区切り、語り手の個性や顔に、より焦点を当てる役割も果たします。

インタビューのどの部分を「クリップ」や引用に使用するかを決定する過程は、学生が文字起こしの中から使用できると思われる部分にハイライトをつけることから始まります。これらの「クリップ」や引用は、タイムコードとともに記録され、執筆前に文章の構造を計画する際に使用されます。「クリップ」となるものは、チーム内で話し合い、使おうとしている部分に関連性があるか、印象的であるかどうかを確認します。

その後、学生はインタビューの録画をiMovieに追加し、インタビューのタイムコードに従って、使うと決めた部分を含むように「クリップ」を短くする編集する作業に移ります。カットを重ねる編集作業は以下のようなものです。

編集中は自分の思う映像や音声の構成に合わせ、カットしたものを混ぜながら行います。その際にタイミング、画像、そして言葉の自然さに注意する必要があります。特に、誰かが話したり何かをしようとしている部分でカットすると、映像が唐突で不自然に感じられるため、タイミングが重要です。また、語り手の顔が見えることが重要なので、語り手がカメラから顔をそらすときは、「Bロール」と呼ばれる他の映像資料を使うのが適切とすることもあります。語り手が話していることを明確にするため、言葉の自然さも重要になります。音声が突然カットされたように聞こえると、視聴者にとっては気が散ってしまうかもしれません。

上記の3つの点を確実におさえるために、学生に推奨する編集方法がいくつかあります。唐突なカットはぎこちないため通常は避けるべきですが、語り手が話している内容が重要であれば、前述した「Bロール」映像を足すのが一つの例です。「Jカット」は動画を分割する際に、次のシーンの音声を編集中のクリップの最後に開始させる方法です。「Jカット」の逆である「Lカット」という方法もあります。どの編集方法も、視聴者にとってより滑らかで分かりやすい動画にする技術です。学生たちは、1本平均1分程度の「クリップ」を20〜30本ほどに切り取り、時間をかけて編集を繰り返します。完成したクリップはiMovieに保存され、ウェブサイトの運営用に使用しているYouTubeアカウントにアップロードされます。

良い「クリップ」にするためには、大切な個人の物語がきちんと伝わるものであるか確かめることが重要です。

「力強いものにも、無駄にもなり得るので、「クリップ」を賢く使うことが大切です。語り手の顔を動画で見せるのであれば、それが彼らの物語の質を向上するか必ず確認します。」

ローザ(2019)

文として簡単に説明できる情報しか伝わらない「クリップ」は、気持ちや個人的な体験が伝わるものほど効果はありません。ただしこれは、必ずしもすべての「クリップ」が感情的なものでなければならないという意味ではなく、示唆に富み、興味深いものでなければならないという意味です。また、ページに相応しくない内容や関係のない映像、音質の悪い映像も避けなければなりません。正しく編集を行った「クリップ」は短く効果的な映像資料としてウェブページ全体に追加され、語り手の物語の紹介に計り知れない付加価値を与えるのです。

ここでは、語り手の一人であるヤセルのページ「アサド政権下で育って」の冒頭部で使われた「クリップ」が編集前の動画と比べどう変わったかの比較例をご紹介します。元は105秒あったインタビューの切り抜きは、以下の過程を経て、彼のストーリーの重要なテーマを効果的に説明する34秒の予告編のような「クリップ」となったのです。編集過程の詳細は、こちらの文字起こしをご覧ください。

  1. インタビュアーの声、説明が必要な内容、そして無関係な情報をカットする
  2. テーマ(この場面では感情)ごとに色分けし、重要な引用箇所を特定する
  3. 重要な感情である 「恐怖 」に焦点を当てることを決める
  4. 文章内や文章間のぎこちない部分をカットし、全体の流れを良くする

編集と公開

使用可能な「クリップ」を用意したのち、執筆の作業が始まります。初期の段階で作成した概要や構造を修正したり内容を書き直したりしながら、「クリップ」や引用も追加し、より総合的な語り手の物語の説明に拡張していきます。このように立てた計画をもとに、学生はウェブサイトに自分のページを作成し始めます。グループ全体で一人の語り手のページをまとめるために共同作業も行いますが、基本は各学生が物語の特定のテーマや時系列に基づいて、自分自身のサブページを作成します。 他の学生からフィードバックを受けながら執筆作業を続けますが、学生は一人一人自分の担当を責任をもって担当します。

このプロジェクトで使用する文章の形態について重要なのは、学術的語彙から少し離れるということです。このプロジェクトは、日本人や一般的な英語話者を対象にしたウェブサイトであることから、より一般的な言葉遣い、学術的な専門用語や分析的な言葉は最小限にとどめます。その代わり、学生は社会・政治的情勢と個人の声や人生経験を織り交ぜ、完全な分析を行うように指導されます。このような書き方をすることで、その国や政治的な出来事に詳しくない読者にも、語り手のストーリーを包括的に、なおかつ個人的な視点で伝えることができるのです。

「自分の声ではなく、語り手の声を届けようとしました。難民については知っていましたが、このような書き方については知らなかったので、多くの学生が少し苦労したと思います。」

ナホ(2020)

学生が自分の担当箇所を下書きし、編集を続ける間、TAとスレイター教授は繰り返し修正し、コメントをします。学生自身も定期的にグループで集まり、お互いの箇所の内容について、重複の可能性やより深い分析、関連のあるのページへのリンクの仕方などを話し合います。このような執筆と編集の過程を何度も繰り返しながら、学生は語り手の経験を包括的かつ適切に表現し、内容を洗練させていきます。語り手と学生の双方が納得のできるページを作り上げたいという強い想いが、洗練された成果物を作り出す原動力となっています。

「自分の行動や人との接し方について、より深く考えることができるようになりました。また、難民の仕事に興味を持つきっかけにもなりました。自分のやりたいことが見つかったのです。」

ローザ(2019)

最後に、ウェブサイトに掲載するページの最終版原稿を出力し、語り手に送る作業があります。語り手の物語を掲載するのに今一度承認を得るために行うこの作業は、語り手が自分のデータに対して完全な権限を持っていることを再び伝えるためにも重要です。語り手はちょっとした変更を加えたり、誤字や事実と異なる記載があった場合に訂正することもできます。語り手自身が承認するまで、当サイトで公開されることはありません。

語り手の最終的な同意を得た後、一般に向けにウェブサイトを公開します。これらのページはすべて、5ヶ月間におよぶ学生の努力と精力の集大成です。この授業は努力を要しますが、多くの学生にとって大学生活における最も有意義な経験となっています。

「私が最も学んだことは、個人個人と取り組むことの重要さです。ニュースで目にするものはすべて遠くに感じるかもしれませんが、その背後には必ず、その出来事を体験している実際の人がいるのです。」

アヤノ(2021)

執筆:マヤ・スズキ・ハウスマン(2021年度「デジタル・オーラル・ナラティブ」生徒・TA)
翻訳:相馬 綾乃(2021年度「デジタル・オーラル・ナラティブ」生徒・TA)


すでに公開している語り手の物語はこちら

サナ

ガーナとブルキナファソで育ったサナは、社会活動への従事によりイスラム過激派組織による迫害を受けました。安全を求めて日本に逃れましたが、その後、強制送還の代わりに選ばざるを得なかった収容所では身体的・精神的な苦痛が待っていました。

ニョー

ニョーはミャンマーの独裁軍政のもとに育ち、1988年の民主化運動の暴虐的な弾圧をきっかけに、身の安全を求めて日本に来ました。日本での生活は長い間厳しい制限も多く苦労してきましたが、ニョーは日本で見つけた自由を噛み締めています。

パトリック

パトリックはカメルーンの英語圏に生まれ、アングロフォン(英語圏)危機として知られる内戦が続く中、命を狙われ、避難を余儀なくされました。日本で身の安全は確保したものの、今度は逮捕、収容、そして仮放免による困難に直面してきたのです。

ナヘド

ナヘドは北アフリカのチュニジアで生まれ、LGBTQであることを理由に幼い頃から孤立、嫌がらせ、虐待を経験しました。ナヘドの人生は、チュニジア革命、イスラム教、チュニジアの男女に対する厳格な社会的期待の影響を受けてきたのです。

クリストファー

クリストファーはカメルーンで労働者の権利のために闘う活動家でしたが、やがて政府による迫害を受け祖国を追われました。日本でのより良い生活を望んでいましたが、庇護を求めた数年と収容された8ヶ月間において様々な困難を経験してきました。

ヤセル

シリア紛争を逃れ母親と妹とともに来日したヤセル。以来、厳しい仕事と明治大学での学生生活を両立させながら、家族の面倒を見てきました。現在、ヤセルは日本で数少ない認定を受けたシリア難民であり、ソーシャルメディアでも活躍する俳優です。

オジー

リベリアでの内戦と迫害からカナダに家族と逃れる道中に日本で拘束されたのは、オジーがわずか13歳のときでした。代わりに日本で庇護を求めましたが、難民認定の結果を待つ間、仮放免という状態下での制限された生活と不確かな未来に縛られています。

ジェームズ

カメルーンの少数派である英語圏出身のジェームズは、家族を残して日本に逃れるまで、若い頃から政府や軍による多くの差別や暴力を経験しました。あらゆる困難に直面してきましたが、乗り越えるのに不可欠だったのはキリスト教の信仰心でした。

サンデイ

1970年にウガンダに生まれたサンデイは、若い頃から熱心に取り組んだ民主化の政治活動のために迫害を受けました。生きるためにすべてを捨て、2007年に日本にたどり着いて以来、難民認定を求めて裁判や入国者収容所で闘ってきました。

ガブリエル

ガブリエルは、キリスト教を説いた著書がきっかけでイスラム過激派のボコ・ハラムから殺害予告を受け、ナイジェリアに戻ることができなくなり日本で庇護を求めました。しかし難民認定を目指した30年間、収容所内外での厳しい制限に直面しました。

以下の語り手の日本語版は現在準備中です。今しばらくお待ちください。
※リンク先は英語版です。