1. 初めに
他の多くの国とは異なり、日本では難民認定を申請してすぐの就労は許可されていません。難民申請から6ヶ月後に就労許可の申請は行うことができますが、これも全員が取得できるわけではありません。この就労許可がなければ、難民たちが働いて収入を得ることは違法となります。日本では難民に対する支援金の給付は少なく、生きていくために必要な最低ラインを満たすことはできません。経済的困難は、逃れてきた国で生き残ることに必死な難民たちにとって、最も大きな心配の種となっています。
運良く就労許可を取得した人でさえ、6ヶ月後には再申請しなければいけないため、決して安心することはできません。コンビニエンスストアや宅配会社などの未経験者向けの仕事であっても、短期間しか働けないかもしれないという懸念から採用を拒まれることも多くあります。そのため、ほとんどの難民申請者は不規則な仕事、特に3Kと呼ばれるキケン、キツイ、キタナイ仕事に就くしか選択肢がないのです。これらの仕事には、契約書がなかったり、最低限の労働基準を満たしていなかったり、社会保険の加入義務がなかったりします。したがって危険な仕事の最中に怪我をしてしまった場合、適切な処置を受けることなく、解雇されてしまうこともあります。職場によっては病院に連れて行ってくれることもありますが、大抵は解雇されてしまうとクリストファーは言います。
クリストファーは難民として日本で数え切れないほどの困難に直面しました。正しい情報を得ることができず、収容所を出た際には行くあてがどこにもありませんでした。クリストファーが日本で初めて仕事をした際、彼は他の外国人労働者に騙され、数ヶ月無給で働かなければなりませんでした。その後も彼はいくつかの日本の会社で働きました。カメルーンでの仕事とは全く異なる労働環境に順応することは、クリストファーにとってとても大変なことでした。
2. 日本での仕事
来日した当初、クリストファーは日本でどうやって暮らしていけばいいのか全く分かりませんでした。そこで彼は支援を受けるため難民支援協会を訪ね、日本で生活するために必要な最低限の費用と宿泊場所、そして食事を受け取りました。その後、最初の仕事を始めるまでの間、難民事業本部の支援のもとで生活を始めました。
2.1. 仕事探しの過程
個人的な繋がり
クリストファーは就労するにあたって、他の難民との「個人的な繋がり」がとても重要だと語ります。働きたいと思っていても、何から始めればいいのか分からなかったため、彼はまず周りの友人たちに話を聞き、仕事探しを始めました。経済的に余裕がない難民たちにとって、難民同士の繋がりを通じて仕事の情報を収集することは、最も一般的な手段となっています。
多くの日本の会社は難民を直接ではなく、人材紹介業者を通じて雇用しています。様々な人材紹介業者が存在するため、難民たちはどの業者が外国人労働者に対して理解があるかを見極め、選択することが重要になってきます。
ウェブサイト
ハローワークやバイトルなどの組織では、基本的な日本語力が必須となっています。難民の多くは、食料などを買うお金も所持していないため、すぐに働かなければなりません。クリストファーはすぐに働くことができると思っていましたが、日本語能力が就労の条件であることを知り、衝撃を受けたと話します。この言葉の壁が難民が仕事の紹介を十分に受けられない原因となっています。難民のほとんどは日本語が話せないため、自力で繋がりを作り仕事を探す必要があるのです。
クリストファーは日本語を学ぶための時間とお金がなかったため、個人的な繋がりを通して仕事を見つけるという手段を取りました。就労許可のある特定活動ビザを取得したものの、6ヶ月後に更新することができず、仕事を辞めざるを得なくなりました。その後も彼はビザの再取得のため申請が下りるのを待ち続けました。
日本語力
クリストファーは英語、フランス語、そして他に2つの出身地域の言語を話すことができます。彼の言語能力は日本にいる多くのアフリカ人に共通することですが、何ヶ国語も話せるからといって日本での仕事探しが有利になるわけではありません。彼は仕事を探し始めた当初から、日本語の勉強に苦労していました。共に働いていた同僚たちはほとんど英語を話すことができなかったため、より日本語力が求められたのです。彼の日本語力の不足は、仕事探しのプロセスと仕事内容に大きな影響を与えました。
クリストファーにとって、日本語を習得し、職場で自分の意見を言うことはとても難しいことでした。そのため、職場の人とコミュニケーションが上手く取れず誤解されてしまうことも多々ありました。クリストファーが職場で怪我をし、病院に行かなければならなかった際、彼は支払い手続きなどを理解することができませんでした。職場や人材紹介業者からの説明もなく、誰がどのくらいの額を支払ったのか全く分からない状態でした。
2.2. 不法就労
違法的な就労ビザの使用や、ビザを所持せず働くことは、労働者と企業の両方にリスクが伴います。違法が出入国在留管理庁によって判明した場合、その人は収容所に送られ、強制送還の命令が出されるか刑事罰の対象となります。その場合、再度ビザを取得することは困難になり、強制送還の可能性がより高まることになります。
しかし、日本企業の中にはリスクを気にせず不法に移民を雇うケースもあります。これは、不法就労者は搾取しやすく、解雇もしやすいと考えられているためです。労働法に違反した場合は雇用主も罰則を科せられますが、それでも外国人労働者の不法雇用は後を絶ちません。
「違法の仕事」は、麻薬の販売や車の盗難など、それ自体が違法である種類の仕事だけを指すわけではありません。多くの仕事は日常的なもので、それらが「違法」と捉えられる理由としては、その仕事を与えられた難民やその他の労働者たちがビザを取得し、合法的に働くことができていないためです。一部の悪質なブローカーや雇用主たちは、契約書を作成せず、週に数日しか働かせないなどの悪条件を承諾させ、安い賃金で働かせる場合もあります。仕事が合法かどうかを判断するのは難民自身の責任でもありますが、日本語が堪能でない彼らにとってこの判断は難しいのです。
クリストファーは日本で違法の仕事をしたことは一度もありませんが、そのような仕事を経験したことがある彼の友人の話を共有してくれました。その友人は日本の就労制度についてあまり知識がなく、ビザを所有せずに他の外国人と共にある仕事を始め、出入国在留管理庁によって不法就労が判明してしまったといいます。そのほかにも、故意に難民を違法な仕事に誘い込み、詳細を明かさずに仕事させるといった悪質なケースもあります。
3. 3つの仕事
3.1. 1つ目の仕事:自転車の部品出荷
クリストファーの日本で最初の仕事は、自転車を細かく分解しアフリカ諸国に出荷することでした。この仕事は同じカメルーン出身の方から紹介されたものでしたが、この職場では外国人が他の外国人によって不当な扱いを受けるという状況に驚いたといいます。トラブルに巻き込まれたくなかったクリストファーは2ヶ月分の給料を受け取ることなく、他の仕事を探すためその職場を離れました。
クリストファーは、日本について何も知らない外国人労働者たちは、いじめなどのターゲットになりやすいと話します。特に来日して間もない人は知識や情報に乏しいため、騙されてしまう可能性が高くなります。クリストファー自身も来日した当初、間違った情報を教え込まれ、日本に対して不信感を抱いたことがあると打ち明けてくれました。このように、弱い立場にある難民や新しく来日した外国人たちを利用し脅迫する人も中にはいるのです。
3.2. 2つ目の仕事:パン工場
2つ目の仕事はパン工場でした。クリストファーは特定活動ビザを取得し、最低賃金の時給(約800円)で働いていました。主な仕事はオーブンからパンを取り出すことだったため、彼は常に高温の熱にさらされている状態でした。そしてこれがのちに深刻な健康問題を引き起こすことになります。
この仕事を請け負っていたのは全員外国人でした。そのため、クリストファーが苦情を言ったとしても、他の外国人労働者と交代させられるだけであったので何もすることはできませんでした。彼はその仕事が体に悪影響を及ぼしていることを知りながらも、働かざるをえない状況にいたのです。クリストファーは、そのような危険な作業を担当していたのは外国人だけだったため、外国人労働者の労働環境は守られていなかったと話します。
3.3. 3つ目の仕事:建設工場
パン工場を去った後、クリストファーはエアコンや冷蔵庫などの家電製品を製造する建設工場に勤務しました。肉体労働でしたが、時給は1,050円前後で彼が日本で行なった仕事の中で最も高い金額でした。残業をすると1時間あたり3,000円もらうこともありました。工場では日本人と外国人を含めて約4,000人が働いていました。労働条件が良かったためクリストファーはこの仕事を気に入っていました。会社に社会保険があったため、彼は当時健康保険に加入していました。
一緒に働いていた日本人労働者の多くが英語を学びたいと思っていたため、クリストファーは英語と日本語の両方でコミュニケーションを取っていました。その職場は、日本人女性と外国人男性が結婚することもあるような、包括的な雰囲気だったといいます。以前の仕事と比較しても雇用主や会社との間でトラブルが生じることはなく、ストレスなく働くことができていました。そのため、彼は特定活動ビザが更新できなくなってしまうまでの4年間、この職場で働きました。
比較的好条件の仕事だったとはいえ、彼はその中でも外国人の不当な扱いを目にすることはありました。他の日本人労働者と話をした際に、同じ仕事を担当していても給料が違うことに気が付いたのです。
外国人労働者は会社から直接雇われていたのではなく、人材紹介業者を通じて雇用されていたため、その分の費用が給与から差し引かれていました。クリストファーは同じ仕事をしているにも関わらず、給料が異なることに対して納得がいきませんでしたが、働き続けるためには見て見ぬ振りをするしかありませんでした。
クリストファーは日本での就職に関して、日本人と外国人は平等に扱われていないと話します。特に難民は人材紹介業者を通じてしか仕事を探すことができず、言語の壁などから騙されることもあります。クリストファーは約5年間特定活動ビザを通して就労していましたが、その間も政府から難民として認定されることはありませんでした。
4. 日本の働き方について
4.1. 誰が誰を搾取しているのか?
一番大きな搾取の問題は、給与の不平等さではなく、難民認定を希望する人たちを無視していることです。ここにおいてクリストファーの考えは多くの日本人と異なります。
法務省は「偽装難民」による日本への移住が多発していると発表しています。多くの外国人がお金稼ぎを目的に来日しており、実際に母国で迫害を受けていないのにも関わらず、難民認定を受けようとしていると主張しているのです。
しかし忘れてはならないのは、クリストファーのような真の難民たちがいること、そして彼らは認定を待っている何年もの間、働くことも難しいという厳しい現実があるということです。難民支援協会などの支援団体は、政府からの資金が少なく全員に十分な生活を送らせることができないため、就労許可を積極的に提供することを志願しています。しかし状況は改善されず、難民たちは違法に仕事をするしかないという状況に陥っているのです。
クリストファーは、これを異なった角度 ー 難民当事者の角度 ー から見ています。「ズル」をしているのは難民ではなく、日本政府であるということです。
クリストファーは、多くの難民は日本の職場で不当な扱いを受けていると話します。難民認定はせず、5ヶ月間の特定活動ビザで一定期間働かせ、その有効期限が切れてしまえば収容所に入れたり、強制送還を言い渡したりと、不適切な対応がとられています。彼はこの現状に、日本政府は難民を便利な労働力として利用するだけで、難民認定をするつもりはないのではないかと不信感を抱いています。日本では、約99%の難民申請が却下されるため、この問題はより議論されるべきなのです。
4.2. 労働条件と文化の違い
クリストファーはその他大勢の外国人労働者のように、日本の働き方に順応しなければ生きていくことができないと話します。
日本の働き方はカメルーンとは真逆であり、彼は日本の働き方が最善であるとは考えていません。時には休むことも重要だからです。過労を避けるため、そして会社と社会全体をよくするためにも、労働者はより多くの休息の機会を与えられるべきだといいます。働きすぎは、過労死などにもつながる可能性があるため、休息を義務付ける必要があると考えているのです。
クリストファーは働き始めた当初、日本での働き方に驚きを隠せませんでした。自分や私生活を犠牲にし、集中的に働く日本の労働環境は変わるべきだと指摘します。仕事と私生活のバランスを維持することは大切であり、家族を犠牲にしなければいけないというような日本の環境はよくないと思うと話します。これは外国人労働者だけに限らず、日本全体で働きかけていくべき問題でもあります。
4.3. 労働組合
クリストファーは、日本とカメルーンの最大の違いは労働組合の有無だと話します。日本にも長い労働組合の歴史はありますが、今の日本ではその影響力は低下しているという現状があります。カメルーンでは各会社に労働者、雇用主、および政府によって作成された労働法があり、労働組合は三者の意見を提示し、平等な契約を結ぶために活動しています。この労働法には、給与、保険、労働状況などの基本的な条件が記されているため、労働者の権利が保護される可能性は高いといいます。
クリストファーにとって労働組合は、単に労働者側の権利を保護するものではなく、違う立場の人の権利も平等に反映させるための組織なのです。
クリストファーは、自身の信念を貫くため労働組合に情熱を注いできました。彼は今でも労働組合は労働者を支援し、会社による不当な扱いから彼らを保護することができると信じています。この話から、クリストファーは差別されている人や社会的弱者を決して見捨てない性格であることがわかります。彼は、日本での就労経験を通じて社会的に弱い立場にいる労働者たちを守るシステムを構築したいと感じました。