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「まるで赤ん坊のように泣きじゃくってしまったんだ」
カメルーンにおける政治的分断、なぜジェームズが母国カメルーンを離れなければならなかったのかについて前セクションで説明されたところで、このセクションではジェームズの日本での生活について、日本で生活している上で難民申請者であると同時に黒人であることの難しさ、家族から遠く離れて生活することのつらさ、ジェームズの特定活動ビザが彼の生活にどの様に影響を与えるかなどに目を向けていきます。しかし、ジェームズが日本で生活している上で直面する困難な面だけでなく、このセクションでは、日本において受けることができる支援が少ない中で彼がどの様に日本社会で生きているのか、キリスト教徒であるジェームズにとって日本でも教会に行き続けることの価値、そして彼がどの様に孤独に感じているか、難民申請者として日本社会でどれだけ無力に感じているのかについても触れます。

1. ジェームズ、日本に到着
「胸の中にずっと恐怖があったんだ、その恐怖はどんどん積み重なっていったんだ。どんどん積み重なっていって、それはまるで、とにかくどこかに逃げなければならない、どこかに逃げなければならないという感じだったんだ。
カメルーンにおけるアングロフォンと呼ばれる英語圏とフランクロフォンと呼ばれるフランス語圏の政治的分断によってジェームズはカメルーン政府からの不当な扱いと政府軍による武力攻撃に晒され続けました。それらの不当な扱いと武力攻撃は日に日にますます悪くなっていき、ジェームズは4度も殺されていたかもしれないと死を覚悟した瞬間を経験しました。ジェームズは常に殺されるかも知れないという差し迫った恐怖に追われていて、一時も心が安らぐ時間がなかったため、自分自身の安全のため母国カメルーンを離れる決心をしました。私たちが行ったインタビューでジェームズはこんなことを言っていました。「日本について一切何も知らなかったし、日本に逃れてもしも路上で生活をしなければいけない状況になって食べるものも何もなくても関係なかった、なぜなら、日本にいる限り武力攻撃されず、安全だと知っていたから。」日本に逃れてくる多くの難民申請者はジェームズのように「日本は安全な国」という共通のイメージを抱いています。ビザの手続きと交通手段を確保することができたので、ジェームズは遂に日本に逃れてくることができました。インタビューで彼は日本に到着した瞬間、遂に自分の命が安全になったと思い、まるで赤ん坊のように泣いてしまったと話していました。
「日本でどんな状況で暮らすかー家に住むことができるか、路上で住むことになるかーなんて関係なかった、日本に行けば攻撃されることなく、身の安全は守られると思ったからさ」
「胸の中にずっと恐怖があったんだ、その恐怖はどんどん積み重なっていったんだ。どんどん積み重なっていって、それはまるで、とにかくどこかに逃げなければならない、どこかに逃げなければならないという感じだったんだ。だから日本に到着した時には、金曜日に着いて、その次の日は今日みたいな土曜日だったんだけど、一晩経って次の日の朝に起きた時にまるで赤ん坊のように泣いてしまったんだ。」
この映像はジェームズが日本に到着した際の彼の感情を捉えています。彼は日本に到着するまで日本がどんな国なのか、日本について一切何も知りませんでしたが、日本に到着した際に、遂にやっと攻撃される心配をしなくていい安全な場所に来ることができた、何事もなく安全に日本に逃れてくることができたことに安心してまるで赤ん坊のように泣いてしまったと語りました。このインタビューからカメルーンがジェームズにとってどれだけ危険な場所であったか、安全な場所に遂に逃れてくることができて彼がどれだけ幸せだったか読み取ることができます。

2. ジェームズの日本の在留資格
ジェームズは一時滞在ビザで日本に到着し、特定活動ビザを取得した直後に難民申請を行いました。しかし、このビザでは働くことができず、さらに、最初の9か月間は労働許可が下りないので、彼は経済的に自分自身を支えることができません。また、このビザは健康保険を提供しないので、もしジェームズが病院に行かなければならなくなってしまったら、彼は莫大な医療費を負担しなければなりません。新型コロナウイルスの状況を考えると、ジェームズはもし自分が新型コロナウイルスに感染してしまったらと心配しています。彼は、「新型コロナウイルスにかかってしまうかもしれないという恐怖からずっと家にいるようにしているんだ。正直家にずっとこもっているのは気が引けるけど、家にいなければならない、なぜなら、もしここで死んだら、もしここで病気になったら、誰も僕の面倒を見る人がいないからさ。」と語っていました。


この写真はジェームズの最新の(2020年7月現在)特定活動ビザです。日本にいる難民申請者はいつでも必ずパスポートとビザを携帯しなければいけません。そうしなければ、入管収容所に連行される可能性があります。彼らはいつも入管収容所に連行されてしまうかも知れない可能性ととなり合わせなのです。さらに、警察は彼らがただ道を歩いているだけでも彼らのパスポートをチェックしようとします。パスポートを携帯していないだけで彼らは入管収容所に送られてしまうかもれない可能性があるのです。
入管収容所についての詳細はこちらの記事をご参照ください。
「もしここで病気になったら、もしも病気になったら、誰も僕の面倒を見てくれる人はいないんだ。」
「だから自分の身を守るために、家にいることにした。」

3. ジェームズの日本での生活
「食べ物や着る服、またはお金を補助してもらいに行くことに本当に恥じを感じているんだ。」
ジェームズはJAR(日本難民支援協会)などの難民支援団体に行っていません。ほとんどの難民申請者は日本に逃れてくると、難民支援団体に支援を受けに行きます。なぜなら、支援を受けなければ彼らは生活していくことができず、さらに難民申請をして難民許可をもらうことがとても難しいからです。しかし、ジェームズはどの難民支援団体にも行っていません。ジェームズはカメルーンで自分のビジネスを経営していたのと、さらに、彼は家族を支えるために16歳の時から働いていたのでとても自立していて、他人からの支援を受けることに抵抗があるからです。これは彼が難民支援団体に行かない理由のひとつです。彼はインタビューで支援を求めに行くこと、物資支援を受けること、お金を受け取ることにとても恥を感じると語っていました。ジェームズは労働許可が下り次第一刻も早く働いて、なにの支援も受けることなく自分自身を養い、自立したいと思っています。これは彼が難民申請者として受け取れるはずの少しの支援を受け取らない理由のひとつであります。この映像から、難民申請者は新しい環境で生き延びていくためにいやでも支援を受け取らなければならない時があるということが見て取れます。
3.1. サポートシステム
日本にはいくつかの難民支援団体が存在するが、ジェームズはその中のいくつかにしか行っていません。彼は日本で多くの困難に直面しているのにも関わらず、ジェームズはとても謙虚な性格なので、彼はあまり多くの難民支援団に支援を受けに行きたくないと思っています。なぜなら彼は支援を受けることに恥を感じるからです。彼はインタビューで、「支援を受けに行くことにとても恥を感じる。」と語りました。彼はカメルーンで自分でビジネスを経営していて、自分自身と家族を支えていたので、日本での今の現状では他人に助けを求めに行かなければならないことに恥を感じていて、もしできるならば他人の助けに頼らずに済むように早く仕事を探して経済的に自立できるようになりたいと思ってると語りました。彼は早く経済的に自立したいと思っていると述べていました。難民申請者仲間のガブリエルが彼らが通うカトリック教会といくつかの難民支援団、MINAやSRSG(ソフィア難民支援団体)をジェームズに紹介してくれました。ジェームズは日本に逃れてきてから直ぐに難民に友好的な団体に所属する人々に紹介され、難民に友好的でない人たちに出会っていないので、彼の日本人に対する印象はとても良い物でした。実際に、彼はインタビューで「日本人は歓迎的である。」と語っていました。支援団体はジェームズを含む難民申請者にとって差別などを受けることがない安全な場所でありますが、一度支援団体の外に出ると、差別などに直面する可能性が高くなります。ジェームズは支援団体に所属しない人々から彼の人種をもとに差別を受けたことがあります。難民申請者は社会にまだ馴染んでいないので、彼らが支援団体からいったん外に出ると、孤立し、他の人々から疎外されてしまう可能性が高いです。実際に、ジェームズは日本に逃れてきて6カ月(2020年7月現在)が経ちますが、彼は日本社会ではとても無力に感じると語っていました。私たちのプロジェクトのナレーターの一人であるガブリエルがジェームズをいつも手助けしてくれています。ガブリエルがジェームズが行くカトリック教会を紹介し、食料物資支援をしているNGO団体、MINAも紹介してくれました。難民申請者にとってお互いがお互いを助け合うということはとても重要なことであり、これは彼らのサバイバルスキルのひとつでもあります。
1. 教会
教会はジェームズの日本での生活で大きな役目を果たしていて、教会に行くことは彼が日本で生き残って行くためのサバイバルスキルのうちのひとつです。なぜなら、彼は難民支援団体には行かずに、その代わりに教会に行くからです。しかし、ジェームズは必ずしも彼の通うカトリック教会から物資支援を受けているわけではなく、さらに多くの教会のメンバーはジェームズが難民申請者であることを知っているわけではありません。彼は教会から精神的な支援を受けています。教会に行くことでジェームズは神様とのつながりを感じられるだけでなく、他の信仰者と繋げてくれます。教会でのミサは英語で行われ、英語のミサに参加する人々は英語を話すことができるので、ジェームズは教会に来る他の人々と会話することができ、彼は教会にいる人々は皆歓迎的であると語っていました。特に、彼の行くイグナチオ教会は昔から難民支援をしている歴史があるので、ジェームズはとても歓迎されていると感じます。
ジェームズの宗教観については、こちらも合わせてお読みください。
2. MINA
MINAはガブリエルがジェームズに紹介した難民支援団体のうちのひとつです。MINAは難民申請者が日本に逃れてきた時に彼らを支援しています。MINAには難民申請者が落ち着いて生活上の困難や経験したことについて話せるコミュニティスペースがあります。また、MINAにはソーシャルワーカーがいるので、予約制で難民申請者を助けることができます。MINAは交通費を負担し、難民申請者に食事を提供しています。
3. SRSG(上智難民支援団体)
ソフィア難民支援団体は日本での難民申請者増加に伴い、難民問題への意識を高め、難民申請者を支援する目的で上智大学で設立された学生主体のボランティアサークルです。SRSGは毎月難民申請者のために日本語クラスと難民カフェを開催し、難民申請者は生徒から日本語を学んだり、他の難民申請者とつながりをもてたりします。ジェームズはガブリエルと一緒にSRSGに来ます。
SRSGについての詳細はこちらをご参照ください。
4. 日本語学校
ジェームズとガブリエルはヒューマンアカデミーと呼ばれる日本語学校に通っています。ジェームズは無料で日本語のクラスに参加することができ、さらにヒューマン・アカデミーは彼らの交通費を負担してくれます。日本語はジェームズが日本で生活していくうえで必要不可欠なスキルです。日本語は彼の日本での日常生活を助けるだけでなく、難民申請者が難民申請をする際に、書類をすべて日本語で書かなければならないため、日本語は彼らにとって必要不可欠なのです。ジェームズは日本語を学ぶことに対してとても勤勉なので、彼の日本語はますます上手になっていってます。

「ここにいると、日本にいると、まるでどんな社会的パワーも持っていない無力な子供のように感じるんだ」
このインタビューでジェームズは日本にいるとまるで赤ん坊のように無力に感じると語っていました。なぜなら難民申請者である彼は日本では社会的な力がないからです。この映像からは難民申請者や庇護希望者が彼らにとって全くの新しい国である日本に来た際にどう感じるか見て取ることができます。難民申請者は新しい安全な国に避難できたからと言ってその先ずっと安全に幸せに暮らせることが保証されているわけではありません。実際は新しい国に避難した後でも、例えば外国人排斥差別などのとても多くの困難に直面してしまうのです。差別だけでなく、難民申請者にとって自分が生まれ育った国や文化と全く異なる文化で知り合いやとよれる人が全くいない状態で生活していかなければいけないのは、とても難しいことなのです。
3.2. ジェームズが日本で直面した差別
「とても悲しくなって、涙が目からこぼれた。感情に襲われると、こうなるんだ。」
日本での生活はジェームズがカメルーンにいた時と比べると安全なので、大抵の場合日本での生活を快適に感じていますが、時々難民申請者としてだけでなく、黒人として日本で生活する上でいくつかの困難に直面してしまいます。彼はいくつかの人種差別に直面したことがあり、涙を流してしまったこともあるそうです。ある時ジェームズが電車に乗っていた際、彼が座席に座ったとたんに隣に座っていた男性がいやそうに立ち上がり、違う車両に移動して行ったと言います。多くの外国人は日本で似たような経験をします。日本人が電車に乗り、電車内でどこでも好きな座席に座れる場合、外国人の隣には座らないという記事もありました。
また、ジェームズが道で日本人の女性に挨拶をしただけでその女性は目も合わせようとしなかったそうです。ジェームズは全員ではないものの、一部の日本人は特に黒人に対して、公然と人種差別をすると語りました。

4. ジェームズの生活におけるコロナの影響
「家にずっとこもっていることはあまり好きじゃないけど、そうしなければいけないんだ、なぜなら、ここで死んでしまったら、ここで病気になってしまったら、まず、ここで病気になってしまったら誰も僕の面倒を見てくれる人はいないからさ。」
新型コロナウイルスは多くの人々の生活に影響をもたらしていますが、医療保険を持っていない難民申請者、ジェームズにとって新型コロナウイルスは通常の人に比べてより大きい影響を受けました。ジェームズにとって新型コロナウイルスに感染するリスクはとてつもなく大きいです。なぜなら、在留資格の制限のせいで健康保険に加入していないので、もし感染してしまった際に病院で治療を受ける金銭の余裕がないのです。感染を防ぐため、ジェームズの行動範囲は限られてきます。彼は難民支援団体に支援を受けに行くために彼の命を新型コロナウイルスのリスクに晒すことはできません。特に、健康保険を持っていないことに加え、特定活動ビザでは最初の9カ月は労働の許可が下りないので、金銭的に安定していないこともあります。新型コロナウイルスの流行は、ジェームズが働くことができない最初の9カ月間の間に拡大し、同じカメルーン出身者に出会うきっかけをも閉ざしてしまいました。日本には大きなカメルーンコミュニティがあり、コミュニティ内でお互い助け合って生活していますが、新型コロナウイルスの影響でこのカメルーンのコミュニティと繋がりを持つことが難しくなってしまったのです。同じ出身国の人々が情報交換をしたり、助け合ったりするコミュニティはジェームズのように日本での生活の経験が短い人にとってはサバイバル・スキル、つまり日本で生活していくうえで必要不可欠です。しかし、コロナ禍で感染リスクを冒し、埼玉にあるコミュニティに参加することはできません。ジェームズは以前までは他のカメルーン出身の人に夕食に誘われたり、食料を分け合ったりしていましたが、感染を避けるため、そのような交流もなくなってしまいました。さらに、ジェームズには難民申請を手伝ってくれたり、法的なアドバイスをしてくれる弁護士がいないため、通っている教会だけがジェームズが唯一頼れる支援の元なのです。ジェームズは、現在コロナの影響で一時的に閉鎖している教会に戻るのを心待ちにしています。

5. カメルーンにいるジェームズの家族

「僕はとても孤立してしまっているんだ。」
5.1. ジェームズの子供たち
「僕は自分の子供に200%の教育を受けてほしいんだ。親が子供に教育の機会を与えられないのは子供に何も与えていないのと同じことなんだ。」
5.2. ジェームズの妻
「彼女は僕がいなくてさみしい思いをする方が、僕が殺されて死んでしまってさみしい思いをするよりよっぽどいいと考えているんだ。」
この映像ではジェームズが彼の妻がジェームズが自分と子供達をカメルーンにおいて日本に避難したことをどう考えているかについて語っています。彼の妻はジェームズが死んでしまう悲しみを経験するなら、彼が生きていて一緒にいられない辛さを経験する方がよっぽどましだと考えていると語りました。この映像からは彼の妻がジェームズがいなくてどれだけ辛い思いをしているか見て取ることができます。彼らはお互いに一緒にいることを望んでいますが、カメルーンの今の政治的状態ではジェームズがカメルーンにいることはとても危険なことなので、彼の妻は彼が今安全な日本にいることを幸せに思っているそうです。
ジェームズの妻はジェームズが日本に避難するという考えにとても賛同していましたが、実際にジェームズがカメルーンを離れて何日か経ってから彼女はジェームズがいない辛さ、大変さを実感するようになり、ジェームズと彼の妻お互いにとって離れ離れになってしまうのは簡単なことではありません。
ジェームズの妻はカメルーンで学校の先生として働いていますが、給料は最低限です。彼女はカメルーンでのジェームズの身の安全をとても心配していたので、ジェームズが日本に避難するという考えにとても協力的でした。ジェームズと彼の妻は結婚しているカップルのための教会のクリスチャンコミュニティに所属しており、そのコミュニティにおいて他のメンバーがジェームズが日本に避難するための話をしている時にもジェームズが日本に避難するという考えに賛同しました。ジェームズがカメルーンの家族をおいて日本に避難するというのは彼と彼の妻お互いにとって難しい決断であったが、彼の妻は夫の死と向き合うより自分の夫がカメルーンを離れる方を選んだそうです。ジェームズの性別と年齢層はカメルーンにおいて攻撃のターゲットにされていたので、ジェームズが家族と一緒にカメルーンに残るというのも彼の家族を危険に晒す恐れがありました。
5.3. 家族から遠く離れていることの辛さ
ジェームズはとても家庭的な男性なので、彼は家族と一緒にいられなくてとてもさみしい思いをしています。彼はよくカメルーンに残してきた家族のことを心配しており、ジェームズは家族と毎日のようにスマートフォンアプリのWhatsAppやボイスメッセージを使って話しますが、ジェームズは携帯を通して家族と話すだけでなく、実際に会いたいと思っています。また、彼は家族を危険なカメルーンに残してきたことにとても罪悪感を感じているがジェームズの性別と年齢層はカメルーンにおいて攻撃のターゲットにされていたので、ジェームズが家族と一緒にカメルーンに残るというのも彼の家族を危険に晒す恐れがあり、彼の家族はジェームズが日本で安全でいることを喜んでいるそうです。ジェームズは難民認定されたら、家族をカメルーンと比べて安全な日本に連れてきたいと望んでいます。
この映像では、女性にとって他の国に避難することや、国を逃れることがどれだけ大変なことであるか語っています。子供の面倒を見なければならないからです。性別や、女性であるということは難民申請者が安全な場所に避難する際に大きく影響してしまいます。難民申請者になる際に文化面や経済面において女性は男性に比べてより多くの困難に直面するのです。「意思決定者は女性が文化的、社会的タブーにより、一人で移動することや、一人で生活する事、女性が働く権利が保証されていない社会において女性が経済面で支援をしてくれる家族なしで生活していくことの難しさ、または女性がハラスメントや搾取、暴力に直面する恐れが大きいことを視野に入れていない場合が多い」という記事もあります。ジェームズはどれだけ彼が家族全員を安全な日本に連れて来たいか語っていました。もし家族全員のビザをとることができるなら、どうにかしてお金を工面し、家族全員分の飛行機のチケットを取ると話してくれました。家族全員を危険なカメルーンに残してきたことに対して、罪悪感を感じているのです。
ジェームズは必ず毎日スマートフォンアプリのWhatsAppやボイスメッセージを利用して家族と話すようにしています。彼は家族のことをひどく心配しているので、家族と毎日話すことで、彼らが無事で元気に生活しているか確認しています。彼はとても家庭的な男性なので、彼が日本で困難に直面している時でさえ、家族とは必ず毎日話すようにしているそうです。彼がそれほど頻繁に家族と話すようにしている理由は、家族と離れていて辛いからだけでなく、彼は実際に彼らに会って彼らを抱きしめたいと思っているからです。上の映像からはジェームズがどれだけ彼の妻都一緒にいられないことをさみしく思っているか見て取ることができますが、この映像からは彼がどれだけ家族全員と離れていることが大変で辛いことであるか分かります。
ジェームズは安全な日本に避難してくることができましたが、自分が生まれ育った故郷カメルーンで家族と一緒に生活することを望んでいて、彼は家族と一緒にいられなくてさみしい思いをしています。しかし、ジェームズはカメルーンにいた際に危険な目に何度も遭遇したので、カメルーンには戻らないと語っています。また、彼は自分がカメルーンでおかれていた状況を思い返すと恐怖を感じるとも語っていました。このインタビューの映像から私達は難民申請者の現実を見ることができます。難民申請者は避難した先の新しい環境で身の安全を保証されますが、それと同時に自分の家族や故郷から離れて生活しなければいけない辛さを日々感じています。しかし、そんな状況に置かれてでも、自分の身の安全のために故郷を離れる選択をしなければならなかったのです。

6. 最後に
ジェームズへのインタビューの映像から彼が自分の故郷であるカメルーンと比べて彼自身にとって安全な日本に逃れてくることができてすごく喜んでいることが見て取れます。しかし、彼の日本での生活は決して簡単なことではなく、日々様々な困難に直面しています。人種差別に直面するだけでなく、十分な支援を受け取れていない他、彼の今のビザでは、労働許可が下りないので、働くこともできません。そして何より、ジェームズは孤独なのです。彼はカメルーンにいる家族を恋しく思い、そして常に彼らのことをとても心配しています。また、カメルーンのとても危険な状況に家族を残して来たことに罪悪感を感じており、家族全員を安全な日本に連れてこれるように願わない日は今まで一日としてありません。ジェームズは現在日本で生活していますが、2つの場所で板挟みにされていることが見て取れます。ひとつは彼が今生活していて安全な日本、そしてもう一つは彼の故郷であり、彼の家族全員がいるカメルーンです。この2つの場所に板挟みにされている状況がジェームズに完全に日本になじみ、完全に日本社会の一部になることを困難にさせてもいるのです。難民申請者達が安全な新しい国に避難できたからと言って幸せに生活していくことができるとは限らないことが一目瞭然です。自分たちの身の安全のために逃れてきた避難先の新しい国でも多くの困難に直面します。そして、新しい社会において脆弱な立場に置かれてしまうので、簡単に社会から搾取の対象になってしまったり、社会から除外されてしまったりするのです。難民申請者達の人生、彼らのストーリーはとても複雑なのです。そして、さらに彼らが置かれている環境を悪くしてしまう原因として、自分の持っている物、人生、家族、すべてをあきらめて自分の身の安全のためだけを求めて日本に逃れてくる難民申請者達の存在が日本社会で生活する人々に知られていないないということです。難民申請者の「アライ」ー味方、助ける存在になるために、まず初めに彼らの人生の物語、彼らの「声」を知ることがとても重要なのです。
「もし家族全員にビザが下りどこからお金を借りてでも彼らの飛行機代を支払うよ、分かる?彼らが(カメルーンを離れるためなら)どこからでもお金を借りて飛行機代を支払うよ」